「あれえ、公ちゃん、仕事行かへんの?」
「何言うてくれるの、今日は日曜日やんか」
「そうか、ごめんごめん。この頃、カレンダー見ても今日が何日か、わからん時があるんよ。うち、呆けたんやろか」と云う母に「夕べ何たべたか覚えてるか?」聞き返す。
「えーとね、カレーライス。美味しかったわあ」「覚えてるんやったら、大丈夫や。呆けたら今は認知症云うんやけどな。食べた事すら忘れてたら、呆けやな」
「そこは大丈夫なんやけど・・買い物に行っても買い忘れあるし、銀行行っても機械(ATMの画面)押せへんし、物忘れは多なるし、足は弱なるし、もう呆け呆け!」ため息交じりに話す。
「それらは寄る年なみや!心配せんとき、なあ花ちゃん」と私に振られた。
「そうよ、私なんかよく知っている人なのに名前出てこないし、もの忘れも酷いもんよ」と云ったものの、最近、デイケアーに行きたがらなくなり、何かと『うち、呆けてないか』と聞いてくる母に認知症ではと疑ってもいた。
「ねえお義母さん、明日ちょうど定期の診察日やし、院長先生に話してみようか」と思い切って云ってみた。
「そうしよう!院長先生なら、ちゃんと聞いてくれはるしな」と返答あり。
きっと義母自身〈本当に呆けてたらどうしよう〉と悩んでいたのかもしれない。
次の日、先生のお顔を見るなり「院長先生、会いたかったあ。変わりはないですけど、うち、呆けたみたいですわ(アハハ!)何か良い薬ありますか!」
「いやあ、タカさんは元気で僕も会えて嬉しいですわ」と云っていつもの手順で診察が終わった。
母がこの日の最後の予約患者でしたのもあり、ゆっくりと母の話しを聞いて「タカさん、これやってみましょうか」
長谷川式簡易知能評価スケールを用意しゲームをするかのように検査が始まった。
「タカさん、大丈夫!認知症の入り口やけど、安心してください!高齢になるとね、誰でも、忘れっぽくなるし動作も遅くなるもので心配しなくて大丈夫。
ただね、転んで骨折したりして入院すると、環境が変わった不安で認知症の入り口からダーと進むから気を付けて歩くようにしましょう。
大好きなワンちゃんと散歩したり、デイケアーに行ってお友達とお喋りして下さいね」と言われた。
そして母がトイレに立った時に私にも話された。
「お母さんは物事を忘れたという自覚がまだ有るので、今のところ軽度認知症にあたると言うか初期認知症と思います。
周りの人への気づかいができる人だけに、今まで出来ていた事が出来なくなったり、人前で恥をかく事があったりで自信を、失くしているように思います。
沈んだ気持ちは鬱にも繋がり認知症を進めてしまうので、これから何か失敗する事があっても、おおらかな気持ちで接してあげて、話しを聞いてあげてください。
そこには認知が進んでいるサインがあるのでまた、教えてください。
帰りのタクシーの中で「花ちゃん、先生に相談して良かったわ。また今度も一緒に行ってな。」「大丈夫!そばにいるよ」と云うより早く手が繋がれていた。
何だかすごく愛おしい❣