8/16 金剛能楽堂(京都)で行われる第十九回大文字送り火能~蠟燭能~を3年ぶりに観能してきました。
上演された蝋燭能「善知鳥(うとう)」についてつぶやいてみたいと思います。
❖善知鳥(うとう) ーあらすじー
諸国一見の僧が陸奥国 外の浜へ行く途中、立山を訪れると、一人の老人が現れる。
老人は昨年亡くなった外の浜の漁師の亡霊と名乗り、妻子への伝言を僧に頼むと、証拠のために着ている麻衣の片袖をほどいて渡し、消え失せる。
外の浜に着いた僧は、漁師の妻子を訪ね、形見の合わせると正しく合うので、漁師の伝言に従い蓑笠を手向けて供養する。
するとそこへ漁師の亡霊が現れて妻子を懐かしむが、この世で犯した罪障の雲に隔てられて近ずくことが出来ず、生前に善知鳥をはじめ数多くの鳥獣を殺した報いで苦しんでいることを明らかにする。
そして、地獄で化鳥に変じた善知鳥から責め苦を与えられる様子を見せ、僧に回向を頼みつつ再び消えてゆくのだった。
善知鳥は親子の情愛が深く、親鳥が幼鳥が「やすかた」と鳴くように聞こえるという。
この習性を利用して、鳴きまねで善知鳥を捕獲する猟を行い生計を立てていた漁師。
やむにやまれぬ人間の業にまつわる悲哀と、地獄の凄惨さが蝋燭の灯りに浮かび上がる。
引用文: 第十九回 大文字送り火能 蝋燭能 善知鳥 金剛永謹 リーフレットより
開演の時間となり、会場の照明が落とされ、舞台の四方に置かれた燭台の蝋燭に火が入る。
蝋燭能独特の幽玄さが漂う。
私は、この「幽玄」の空間が好きで、8/16この日には此処に来たくなるのかもしれない。
響く笛の音に舞台の空気が変わり、物語りが始まる。
「痩せ男」と名の着いた面をつけ、幽霊の漁師を演じるシテ役(主役)の登場で不気味な雰囲気がつよくなる。
ウトウという鳥を殺して生計を立てていた猟師が死後亡霊となり、生前の殺生を悔いながらも、そうしなくては生きていけなかったわが身の悲しさを嘆く様。
地獄で化鳥に変じた善知鳥に惨忍な苦しみを受ける様。
人生の悲哀と地獄の苦しみを、瘦せ男の面と所作が一層強くかもし出していた。
善知鳥という鳥を殺して生活を維持していた猟師。
死後亡霊となり、そうしなくては生きていけなかった人生の悲しさを嘆き、生前の殺生を悔いるも、地獄で化鳥した善知鳥に惨忍な苦を受ける。
生きるため、生活のため、殺生を犯した人間が救われる道はないのだろうか。
8月16日、京都の五山送り火は、お盆に帰ってきた先祖の霊を送り出す行事。
ご先祖さんの霊が戻っていくあの世で安らかにおくられることを五山の送り火に願う。