昨日、空き家となっていた古屋が壊されていた。
今日は呆気(あっけ)なく更地になっている。
家に覆うように茂っていた木々もすっかり伐られている。
そこには、何羽かの雀が遊ぶかのようにいる。
同じ町内なのにどんな人が住んでいたか、この町内で育った夫も解らないと言う。
その家の前を通ると、春には木蓮の、秋には金木犀の花の匂いを漂わせていた。
夏には大きく枝を広げた百日紅(さるすべり)の木が鮮やかにマゼンダ色の花を咲かせていた。
晩秋の頃には柿の実をついばむヒヨドリもみた。
更地をみつめていると、その時を惜しむかのように思い出してくる。
まもなく、此処にも賃貸マンションが建つだろう。
そして私は、ここにあった家や庭木の事も、思い出した叙情も、そんなに時間もかからず、忘れてしまうのだろう。