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半年前から、五坪くらいの中庭だが、黒猫とキジ猫がやって来ては喧嘩のように鳴き声を掛けあっている。
右耳に桜の花びら型の切り込みがあるところを見ると、2匹とも去勢(雄)された地域猫のようだ。
いつだったろう。
わが家のチワワが廊下でやけに吠えるので見に行くと、黒猫がやや頭を低くしゆっくり、ゆっくりとチワワを見据えながら、近づいて来るではないか。
(まあ、珍しいこと)とみていると。
猫の前足が庭に下りる縁石にかかった途端、うるさいと言わんばかりにサッシ戸を挟んで吠えるチワワに飛びかかったのだ。
ドォンと音がするや否や、チワワは脱兎のごとく逃げ部屋の隅っこに。黒猫は悠々と、縁の下へと入っていった。
黒猫は思っていたより大きく俊敏で、サッシ戸が閉まっていなかったらきっと、チワワは怪我をしていただろう。
それからか、庭に入ってきた猫を見つけると、ついつい手を止めてどうするか観てしまうようになった。
蝶々やバッタ、蝉はもちろん、実やムシを啄(ついば)みにくる雀やメジロ。小鳥とは言いがたいヒヨドリをも捕まえようとしているような仕草は、遊んでいるように見えて、とても可愛らしく思っていた。
しかし、そんな思いが吹っ飛ぶ場面を目にする。
雨が降ったあくる日、数羽の雀が庭の地面にいた。
何気に椿の根本を見ると、黒猫が地面に微動出せずに体を伏せているではないか。
(まさか、雀を仕留めようとしているのか。)興味津々で見ているとー。
雀とのあいだは2メートルばかり。
じきに雀が猫に気づき飛び去るだろう。と思ったら、一羽の雀が猫のいる椿の根本に近づいていく。
猫との距離が1メートルをきった。
黒い体が秒より速く動いた。
数羽の雀が一斉に庭向こうの屋根にとび上がる。
バハッとの羽音とともに、数枚の羽根が舞落ちていく。
地面に目をやると、黒猫がうつ伏せになりじっとしていた。
重苦しい空気が流れていく。
黒猫がふっと起き上がった。
その口には片羽根が開いた雀が咥(くわ)えられていた。
おっ、と一瞬緊張し息を殺して観ていると、周りにに注意を払うでもなく、雀を咥え、高さ170センチはあるブロック塀を軽々と乗り越え去っていったのである。
その動きは、狩りそのものであった。
遊んでいるようにも見えていた動作は、野良猫が街なかで生きていく現実の姿でもあったのだ。
今日もやって来て、いつもの様に喧嘩みたいに鳴きあっている2匹の猫。
今日も強かに生きている。