マリコは、いつも冗談を言っては周りを笑わせていたが、次第に、自分の事を美化し、他人の気にしている容姿や動作をからかいふざける事が多くなっていた。
授業で学校周辺の絵地図を作るため5~6人ずつの班にわかれ、この日の授業は現地解散で学校に戻らなくてもよくて、楽しんで担当となった地区を廻っていた時である。
「この辺だったよね、マリコの家。どこ見てもマンションみたいな大きい家ないよ!」サチコが言い出した。
「自分家は金持ちって、嘘つきすぎ」シズエも言う。
「ちょっと最近マリコ、調子のってない?すぐ、からかいながら他人の嫌がること言って、笑いを取ってるし」「腹立つわあ」話しながら歩く。
「この家だ!」サチコが指をさす。そこにはマリコの名字の表札が掛かっていた。
「お~い」そこへ、マリコが入っている班と出くわす。
「マリコの家、この辺だったよね。マンションなんてどこにもないけど。」サチコがマリコに話しかける。
さらに、「噓ばっかり言って‼それに、人の嫌がること言っては、からかうし、偉そうにするし、ねえ、みんなもそう思わん。謝って欲しいわ」シズエが言う。
マリコと一緒に来た班の人からも「ちょっと調子に乗ってるな」と声が上がる。どうするかなとマリコを見ていた。
「何で僕が謝らんとだめなん?冗談云ってただけなのに、嘘にきまってるやろ。本当にした自分らが悪いんやろ!」そう言って舌を出すマリコを見た途端、ムカッとした。
マリコの前に進み、「冗談ちゃうやろ、人を阿保にして!御免なさいやろっ」関西弁で怒る私が怖かったのか離れようとするマリコの襟元を掴んでいた。
皆からも責められマリコは半泣きで「嘘ばっかり言って御免なさい。悪口ばっかり言って、からかって御免なさい。もう言いません。御免なさい」と謝って家に入っていった。
「マリコも謝ったし、もう帰ろう。」そう言って私は先に歩き出した。
「ねえ、あれで云わないようになると思う?」シズコが言う。
「マリコの事だからわからんね」「そやな」他のメンバーが言う。
「みんな、本当にマリコの態度が変わったと感じるまで無視しようよ。良い考えと思わん!ねえ、咲もそう思うやろ。一番怒ってたもんね」私は、答えなかった。
私が頭にきたのは、サチコ達が言っていた事より、あのマリコの小馬鹿にした態度にだったからだ。
みんなと早く離れたかった。
家に帰ってからも嫌な感じが残っていた。
マリコひとりに10人余りの人間が囲むようにしてあれやこれやと責めたてて、あれが正しかったのか?ましてや私は、マリコの襟元を取って脅すような態度をとっていた。
あそこまで怒る事だったか。
深夜になっても寝付けなかった。
あくる日、マリコはいつもと変わらない様子で教室に入って来た。
「おはよう」と一人ひとり顔を見て挨拶しているのに誰も答えない。
シズエ達が目くばせをしている。
やっぱり『あれ』を始めたのか!
マリコと目が合った。
お早うと言いながらマリコに近づき、「昨日は私、やり過ぎたね。御免な」頭を下げる私に、サチコ達の視線が集まるのを感じた。
「ううん、僕が悪かったんよ。咲ちゃん悪くないよ」(マリコは自分を僕と言っている)
昼休みにサチコ、シズエそれぞれから「マリコを無視するように」と書かれたメモが回って来たが、無視に加わらなかった。
次の日、回ってきたメモには、『何、ひとり良い子になってるのよ、解ってる!』と書かれていた。
放課後、サチコ達に見えるようにメモをゴミ箱に捨てた。
今、考えると怖くなっかたのかと自分でも不思議に思う。
まあ、マリコに「御免ね」と謝った時点でサチコ達から、何かしらが有るだろうと予想していたからかもしれない。
案の定、マリコに代わって私への無視が始まった。『シカト』だ。
ちょうど席替えで、私の好きな窓際の一番後ろの席になったのがラッキーだった。
空想好きな私は外を観ては、ぼーっと外を眺め自分の世界に入っていた。
周りから見れば悩んでいるように見えるのだろう。
時々「咲、大丈夫かあ~」と笑いながら言うサチコ達の声が聞こえてくる。(ご心配なく!と、心でつぶやく)もともと、トイレに一緒に行くような、お友達ごっこが好きでない私は、今の状態をさほど苦に思っていなかった。
シカトの他に、足をかけられた時もあったけど、かけた本人より早く「○○さん痛くなっかった?御免!」と大きな声で言ってからは無い。
物を隠されることも無かった。
それは美術の教室で起きた。
二人組になってお互いの顔を書くのだが、いつしか、クラスの女子の大半からシカト状態にあった私と組んでくれる人、いるかなと思いながら周りを見回した。
シノブさんと目が合った。
入学しこのクラスになってから朝に挨拶を交わす程度の女子だ。
「良かったら私と組んでくれない?」と言われた。
嬉しかったが、「今の自分は、シカトされているから、組むとシノブさんもシカトされるよ」と話した。
彼女は少し驚いたようだが、「私は人見知りが強くて友達がいないから大丈夫」と。
お互いを描いた絵は先生に褒められ二人とも美術の評価が上がっていた。
シカトは続いていたが、いち個人になると言葉が返ってくるようになっていた。
シノブさんにシカトされた切っかけを話すと思わぬことを聞かされた。
サチコとシズコは「咲さんは普段は優しいが怒ったら不良みたいに怖い人だから友達になるの考えた方がいいよ。マリコも咲に態度が悪いって責められて泣いて謝ってた。」と他のクラスの人たちにも、言い触らしているそうだ。
さすがに意地悪姉妹(小学生の時のあだ名)だ。
やってくれるわ!まあ、マリコにした事は噓ではないし、不良みたいに見えたんだろう。
これも、シカトのひとつだと、気にしない事にした。
それでも、小学校の時の友達に会うと「不良になったてるんか?」心配顔で言われると、ちょっと辛いものがあった。
2学期が始まった。夏休みを挟んだせいかシカトが緩まっている感じがしていた。さらに、夏休みの宿題の一つであった近所の風景を描いた絵が入賞し、朝礼で校長から表彰状を渡されてから、嘘のようにシカトの輪が崩れて行くのが解った。
嬉しいことに、シノブさんとは「さん」付けなしで呼び合い、お互いに悩みや相談もでき、助け合える友達になっていた。
私は小学生の間に3回転校していて、教室で友達がいなくても独りでいる事に慣れていたのかもしれない。
また、成績がまあまあ良ければまず、友達もでき、いじめられる事も少ないと、何となく感じていたから、自分を追い詰めることもせずに過ごせたのではなかったかと今は思える。
小学生の孫にと買い求めました。「いじめと戦おう!」著者:玉聞伸啓 この本を読んでいくうちに自分がイジメに対してやっていた事が間違いでなかったと思えました。イジメから子供を守るためにお勧めできる本の一冊です。