夜中、起こしに来た義母に「起きられよ。行ったら黙って見てられよ」と言い含められ屋敷の隣の畑に連れて往かれた。
村中の人が集まっているかと思えるぐらいに、黒く大きな人垣が出来ていた。
まるで、真っ赤な夕焼け空を横並びになって眺めている切り絵を見ている感じだった。
子供(当時10歳)の私は、立ち並ぶ大人をかき分け重なる人垣の一番前に出た。
目にしたのは、わが家から50メートルほど離れたところに建つ家の納屋がバチバチと音を立て、激しく燃える火事の情景だった。
初めて見る赤々と鮮やかに燃え上がっている大きな炎を、怖い思いと凄いという思いでじっと見つめていた。
何人かの大人がもっと近くで見ようと言いながら前に歩き出した時だった。
炎を巻き上げた火の柱が二本、私から10メートルも離れていない前の地面に刺さるように現れた。
驚くより早く言葉にならない声を出していた。
「そんな大声出したらだめって言うたやろ。」後方からの義母と祖母の声にハッとした瞬間、火柱は消え、焼かれて黒焦げになった納屋の柱が、ガラガラと大きな音と共に火の粉と煙を舞い上がらせ崩れるのを見た。
燃えさかっている納屋に近づこうと前方に移動しようとした大人達は消防団の人に止められていた。
「火の柱がそこに刺さるの、今、見たんだけど」振り返えり言うと、義母と祖母の怒った目と呆れ顔があった。
「この子は、また変な事を云う。そんな、火柱なんか見て無い。何にも飛んできてない。誰も見て無いし、訳のわからん大声出して。」即、強い口調で否定された。
(あんな凄い火の柱を見て無いって。自分、寝惚けてたんかな。凄いと思ったけど怖くなかったし、熱くもなかったし。音もしなかった。やっぱり空想に入っていたのだろうか)
眠ろうと目を閉じると、炎を巻き上げるように立っていた火柱が出て来る。
翌朝、窓を開けると強い焼き畑で出る煙の臭いが家中に入ってきた。
「主屋もご近所へも、移り火や壊れたものも無かって」「火事の原因は、解らんて」朝ごはんを食べながら大人たちが話す。
「怖いほど、えらく燃えてたけど、怪我人や近所に迷惑が無くて良かったぁ。」と、口をはさんだ私に、間髪入れず「もう、ませた事云うて。大きい声出したら駄目やて言ってたのに出して、変な事も言い出すし」怒り口調で又、祖母に云われた。
❝火事の災難時の人だかりから聞こえる声は、野次馬のごとく面白がっていると思われかねず、火元となった家人や被害を被るかもしれない隣人への思いやりに欠ける行為になるから、奇声や「大声は出したら駄目」と言われた事が今なら理解出来る。❞
その時以来、見たかもしれない「火柱」の事は誰にも言わず忘れかけていたが、元日に見た火事の夢の続きで、書いてみることにしました。
読んで下さって有難う。